一期一会
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30年ぶりの連載再開! 『男坂』新章〈北の大地編〉に賭ける思いを激白!
車田正美インタビュー
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デビュー40周年を迎えた2014年。その目玉企画とも言えるのが
30年の時を越え、連載再開となった伝説の熱血漫画『男坂』!
ここでは、「週プレNEWS」での連載スタートを目前とした去る5月、
車田正美が編集部に明かしたその熱き想いを一挙大公開!!
(取材・文=水野光博 氏)- 「楽しくてしょうがない。つまり、仕事だと考えてないんだ」
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――先生、熱血画道40周年、おめでとうございます!
車田 ありがとう。俺のホームページにも、ヨーロッパや南米を中心に世界中から、40周年をお祝いしてくれる書き込みがあるよ。『聖闘士星矢』が海外で翻訳されたり、アニメ化された影響だろうね。日本の漫画が、ここまでグローバルになったかって嬉しい反面、いい加減なものは描けないなって、身が引き締まる思いだよね。
――そして、40周年の目玉企画とも言える『男坂』が、約30年という時を経て、いよいよ週刊プレイボーイ公式HP『週プレNEWS』で連載スタートです。
車田 大ヒット作ならまだしも、『男坂』は週刊少年ジャンプで人気がなくて打ち切りになった作品だから。30年経って復活するなんて、奇跡的だよな。
――正直、驚きました。制作を始めたのは、いつ頃からだったんですか?
車田 ネームを描き始めたのは、今年1月からだな。ゴールデンウィークも返上して描いてたんだ。
――ストーリーやキャラクター、連載当時の感覚や感情を思い出すのは難しくありませんでしたか?
車田 思い出すも何も、スーッと入れたよね。ネームも絵も。描き始める前は、30年も経ってるから、「コイツどんな顔だったっけ?」とか、「コイツのキャラ、どうだった?」って、多少は悩んだりするかなと思ったら、もう何にも考えずに、スーーッと入れたよ。
――それは、すごいですね。
車田 ファンの人たちから「本当に再開するんですか!」なんて熱も伝わって来てる。ただ、一番、燃えてるのは俺かもしれないな(笑)。豪快にペンを持って迫力を出すために毛筆も使った。今、この年で「ここまでやるか?」っていうくらい気合いを入れて描いてるよ。
――絵を拝見しましたが、力強さがみなぎってます!
車田 普通、枯れてくもんだろ? 作家の感性や絵って。でもな、『男坂』を描いていると、若返るというか、絵も瑞々しくなるっていうかね。今から読者の反応が楽しみだよ。『当時、なんで打ち切りになっちゃったの?』って思わせたいよね。
――意気込みをお聞きして、ますます期待に胸が膨らみます! とは言え『男坂』は、30年前の作品です。今の読者がどんな感想を抱くか、期待だけではなく、不安もありませんか?
車田 不安はないね。俺は全力で描くだけ。それに、楽しくてしょうがないんだ。『男坂』は、もう仕事だとか、それこそ金のためにやってんじゃないんだよね。楽しいから描いてるんだ。もちろん、ものすごく力入れてるし、ネームも構図も、直して直して、時間もかけてるけど、疲労感もない。楽しくてしょうがないんだ。そこに尽きる。「30年前、熱血漫画『男坂』は、時代に逆行していた」――先生が『男坂』に、そこまで思い入れがあるのはなぜですか?
車田 やっぱり、「これを描くために漫画家になった!」って想いと共に連載を始めた作品だったからな。
――しかし、当時は打ち切りになってしまった……。
車田 俺にとって、初めての打ち切り、初めて読者アンケートで1位を取れなかった作品だったよね。
――『リングにかけろ』、『風魔の小次郎』とヒット作を連発していた先生でも打ち切りになるって、少年ジャンプって恐ろしい雑誌なんですね。
車田 まあ少年ジャンプに限らず、娯楽誌に載る作品ってのは、終わり方は、ほとんどが打ち切りだろうからね。人気があれば、やめさせてもらえない。作家がやめたくても(笑)。最後はボロボロになって打ち切られる。それが宿命だよね。1位のまま、最終回を迎える作品なんて、そんなにない。俺も、そんな作品は1本か2本しかないからな。
――とは言え、「これを描くために漫画家になった!」と連載を開始した作品です。連載の最終ページに描かれた、“完”ではなく、“未完”の文字に悔しさが滲み出たと想像したんですが?
車田 まあ、打ち切りを知らされ、あと数話で、つじつま合わせして終わらせるくらいなら、“未完”で終わった方が潔いだろってな。今、冷静に顧みれば、『男坂』の連載を始めたのはバブルの直前なんだ。ワンレンだボディコンだ、DCブランドだと世の中が浮かれ始めてる時代。そんな時に、「日本男児とは?」「日本が世界から狙われている!」なんて熱血漫画は、時代に逆行してたんだろうな。
――作品のテーマが、浮き足立った時代にそぐわなかった、と。
車田 まあ、正直なところ、「アンケートがすべてか? それだけで漫画の善し悪しが計れるのか!」って編集部に言いたかったけどな。
――その通りだと思います。
車田 でも、しかたない。打ち切りは漫画家にしてみたら負けだから。志半ばで倒れたとしても、負けは負け。言い訳してもしょうがない。
――先生は、その直後『聖闘士星矢』の連載をスタートさせ、即リベンジしています。
車田 「よおし、だったら人気取ってやろうじゃねぇか。見てろよ、編集部!」って始めたのが、『聖闘士星矢』だったからな。
――カッコいいです!
車田 いやいや、内心、「明日から飯食えるのかなあ」って不安だったよ(笑)。漫画家って、そういうもんだから。
――想像以上に厳しい世界ですね。
車田 しかも質が悪いことに、漫画家ってやめられないんだよな。ボクシングとか格闘技みたいに、バッコーンってノックアウトされれば、「俺は負けたんだ」って嫌でもわかるけど、それがわかんない世界だから。連載できないと、「編集者に見る目がない!」、雑誌に載ったって人気がなけりゃあ、「読者が良さをわからない!」とか、責任転嫁しちゃうわけ。どの世界でも、そうなのかもしれないけどさ、人のせいにしてるうちは出世しないんだよ。言い訳は成長を妨げる。結局、面白くないもんは、面白くないんだ。評価をするのは本人じゃない、読者なんだから。
――では、今回復活する『男坂』は人気を取りにきたということですね。
車田 今の読者が、どう思ってくれるか楽しみだよ。ただ、俺のファンのためだけには描かない。
――どういうことですか?
車田 今も俺には熱烈なファンがいてくれる。それは、本当にありがたいことだよね。でも、その人たちに向けて描いたら甘えになる。あくまでもターゲットは冷静な読者。たまたまパラパラって雑誌をめくってくれた人が、手を止めて読んでくれる力があるかどうかだからね、漫画って。ファンに甘えた作家は絶対ダメになるんだ。宮本武蔵の「神仏は崇(たっと)びて、神仏に頼らず」じゃないけど、「ファンは大切だけど、頼まず」ってことだよね。……ん!? カッコ良すぎたか(笑)。
――いえ、本当にカッコいいです!
車田 それにな、今、「漫画家はやめられない」って言ったけど、俺にはもうひとつやめられない理由がある。
――それは、どんなことですか?
車田 毎日生きてたら、イヤなことがあったりもするだろ? ちょっとしたことで、しょげたり落ち込んだりもする。人間だからさ。俺だって、しょげることもある。でもな、「先生の作品を読むと元気がもらえます」なんて、ファンレターをもらったりする。そんな手紙を読んだら、簡単にやめるわけにはいかないよな。
――仰る通りです。
車田 俺は自分の名刺に“漫画家”って肩書きを書いたのは、45歳過ぎてからなんだ。それまでは漫画家って名乗るのが、「芸術家でも気取ってんのか?」って気恥ずかしかった。それが、病気を患った子供からも手紙をもらったりもするんだ。「『聖闘士星矢』を読んで、病気なんかに負けないで、僕も頑張ろうと思いました」なんて、フランス語の手紙だったりさ。だから、俺の仕事も、少しは世の中の役に立ってるんじゃないかなって思いが芽生えたんだ。
それが気持ちいいってことじゃない。だけど、俺が今日まで40年間やってきたことは、間違いじゃないなって想いはあるよね。世界中に、俺の漫画を読んで元気を出してくれてる人がいる。「頑張ろう」と思ってくれる人がいる。それなのに、「俺が、頑張らなくてどうする!」ってな。漫画ってのは、読者の日常を少しくらい支えてるって一面はあるかもしれない。でも反対に、俺は確実にファンに支えられてる。
――いい話ですね。ちょっと気になったんですが、先生の右手の人指し指……。
車田 これか? 曲がってんだろ。筆圧が強すぎるから40年の仕事で。軟骨がすり減って、骨がぶつかって痛いんだ。まあ、熱血漫画家の職業病みたいなもんだな。
――手術はされないんですか?
車田 よく勧められるけどな。でも、メスを入れるってことは、微妙なタッチが出せなくなる。漫画家が引く線は、機械的な一本線じゃない。魂込めて一本の線を引くわけよ。その感覚がなくなったら、おしまい。だったら描き続けるかぎりは、この痛みは我慢しようってな。「右でも左でもない、男なら真っ直ぐ進め!」――時事問題について少しお聞きしたいんですが、今の日本は、領土問題では隣国にいいようにやられ、いまだにアメリカなどの大国には頭が上がりません。30年前、『男坂』で海外からの脅威に立ち向かう硬派たちを描いた先生には、この現状は、どう映っていますか?
車田 凄いだろ、俺の先見の明(笑)。ただ、冗談抜きで俺が言いたいことは、ひとつ。「いつまで戦後を引きずってんだ?」ってこと。一回戦争に負けただけで、いつまでも卑屈になる必要はないんだ。外国に対してだって、言いたいことは言わなくてはいけない、そういう時代だろ。それこそ『男坂』の裏命題、「“日本男児”、“大和魂”ってなんだっけ?」ってのが、今、問われている気がするんだ。
――つまり、30年前には、語ることすら時代にそぐわなかったテーマが、今こそ逃げずに直視すべき問題になっているということですね。
車田 そう。俺はね、正直、思想が右寄りだとか、左寄りだとか、そんなことはどうでもいいんだ。言いたいことは、ひとつ。「男なら真っ直ぐ進め!」ってこと。
――男なら、一度負けたくらいで下を向く必要はないと。
車田 ああ。『男坂』だってそうだろ。30年前、打ち切りになった時点では、確かに負けたかもしれない。だが、今こうしてもう一度、掲載するチャンスをもらった。もう一度、評価を受けることが出来る。負け組、勝ち組なんて言葉が流行ったこともあったよな。だけど、いったい誰が勝ちか負けかなんて決めるんだ? そもそも、どうなったら負けだ? 勝敗なんてもんは、死ぬまで分かんないもんだと、俺は思うぜ。男なら、何度負けたって顔を上げて歩き続けるべきだろ。
――そうですね。では、先生が“男とは”ということを考えるようになった、きっかけのような出来事はあるんですか?
車田 別に、「男はこうだ!」とか、「こうあるべき!」だなんて、ガチガチに思ったことがあるわけじゃない。ただ、俺は下町育ちだから、職人や大工、漁師……身近にいたのは、そういった人がほとんどだった。土地柄だろうね。日常の言動が、男臭い人間ばかりに囲まれ育った。それこそ、俺が漫画なんて描いてたら、「何やってんだ、表に出て汗をかけ!」ってドヤされてな(笑)。長屋のおっちゃんが、奥さんに「今日の帰りは遅いの?」なんて聞かれたら、「男は外に出たら七人の敵がいるんだ。いつ帰るかなんてわかんねえなあ」なんてのが日常会話で。映画の台詞かよって(笑)。
――そうすると、少し前に草食男子なんて言葉も流行りましたが、今の若者は頼りなく見えたりするんじゃないですか?
車田 そーでもないんじゃないか。いつの時代も、「今の若いヤツはダメだ。軟弱だ」って言われんだよ。もちろん、若い時ってのは、俺も馬鹿なことばっか考えてたし、やってた(笑)。やっぱ、人間ってもんは急に大人になんてなれないからさ。徐々に徐々になってくもんなんだろうな、一人前の男だったり、大人ってもんに。人に出会ったり、別れたり、失敗したり、挫折したり、女にフラレたり、色んなことしながら、男は一人前になってくんじゃないか。
――なるほど。
車田 それに、若いってことは、それだけで素晴らしいんだ。不安に打ち勝つことが出来る。なんも、考えてないだけかもしれないけどな(笑)。『男坂』が打ち切りになったのが、俺が30歳なってすぐの頃。「明日から、どうする?」って不安を乗り越えられたのは、若かったからだろうな。「絶対に、見返してやる!」って思えたのは。歳を取ってから振り返れば、あの時、よくあんなことできたなって思うことばっかだよ。そもそも、よくこんな世界に飛び込んだなって。漫画家は潰しがきかないだろ。俺の考えが、もう少し大人だったら漫画家になんか、なってないかもな。よく、今日まで生き残ったと思うよ。消えもせず(笑)。
――いやいや、先生の実力ですよ。
車田 ただな、「絶対に、見返してやる!」って思ってるだけじゃ、明日はなかっただろうな。自分で言うことじゃないんだけどさ、その分、努力したよ。死ぬ気で描いた原稿を、誰も見てないところで何度もボツにしたりね。「これじゃダメだ。もっと描ける」ってな。それは、今も変わらない。
――今なお、そのストイックさを持ち続けているというのは、使命感のようなものに突き動かされているんですか?
車田 使命感っていうほど大袈裟なもんじゃない。ただ、俺は還暦を過ぎた今でも、自分の作品は、載ってる雑誌の中で光っていたいって思うんだ。読者がパラパラってページをめくる。それこそ、いろんな漫画が載ってる。その中で、読者が思わず手を止める作品、光っている作品を描き続けたい。それだけだよね。「作家としても泣けるよね。こんな作品、他にはないだろ?」――『男坂』について、もう少しお聞きしたいんですが、誰からも愛され、自然と人が集まってくる主人公・菊川仁義は、先生自身がモデルなのではと思ったんですが?
車田 ないない(笑)。俺は、あんなに天真爛漫じゃないから。言ったら理想だよね。どう生きたいかっていう。『男坂』の構想段階で、「人の上に立つ人間、人の輪の中心にいる人間って、どんなヤツだ?」って考え続けたんだ。多分、それは親分肌なわけでもなければ、一緒にいればいい思いができるような人間でもねーだろうってな。それこそ、“赤ん坊のように天真爛漫なヤツ”なんじゃねえのかなって。利害や損得で人はついて来たり、離れたりするって言うけど、最終的には好きか嫌いかなんだ。その人が好きだから、自然と人が集まってくるし、ついてもくる。菊川仁義ってのは、そういうヤツ。太陽みたいに、誰にも好かれる男。「ついて来い」なんて言わない。黙ってても、人がついてくる男なんだよ。
――なるほど。お話を聞いていると、連載再開がさらに待ち遠しくなってきました!
車田 俺もだよ。俺が『男坂』で何を言わんとしているか、週刊プレイボーイの読者は20代や30代の男性だろうから、いろいろ考えてくれると思うんだ。この作品で、俺が何を言わんとしているのか。今の日本の現状を、「情けないな」とか、「どうなってんだ?」って思ってる人がほとんどだと思うんだ。そんな人に、是非読んでほしいよね。
――恐縮ですが、ひとつお聞きしていいですか?
車田 もちろん。
――『男坂』、今度は未完ではなく、完結してくれますよね? 世界各国のドンが集結したJWC(ジュニアワールドコネクション)や喧嘩鬼、“北の帝王”こと神威剣の存在、気になる設定が目白押しです。
車田 よし、「また、打ち切られたのか?」って読者に思われないように、先に言っておこう。まずは8話。この8話で、“北の大地編”を完結させる。そこを一区切りにして、30年のケジメをつける。あとは、読者に委ねようと思う。なんたって商業誌に載ってるわけだから…。
――それは、「もっと読みたい!」という声が多ければ……。
車田 俺はいつでもスタンバイOKだ。アイデアも、すでにある。
――先生の頭の中にだけあるアイデアを、話せる範囲で教えていただいてもいいで
すか?
車田 まずは、仁義が日本を統一した時、9人の兄弟分ができる。“仁義九兄弟”とでも言っておこうか。仁義は、太陽のような存在だって言ったろ? つまり、水金地火木土天海冥。太陽系だよ。そんな9人が集まって――って設定に持っていこうと思ってんだ。
――そ、そこまで言っちゃっていいんですか……。
車田 ああ。そこまで描けるかどうかは、読者次第だから。ただ、今回描く、全8話というのは、ちょうどコミックス1冊分なわけだ。連載開始から30年、もしも『男坂』全3巻を、まだ大事に持っていてくれる人がいるとしたら、その人の本棚に同じ装丁のコミックス4巻が、30年という時を経て、ついに差し込まれる時が来る。その瞬間ってのは、絶対に何か込み上げてくるものがあると思うんだ。作家としても泣けるよね。こんな作品、他にないだろ?(笑)
――ないですね。でも、先生には、まだまだ描き続けていただきたいです!!
車田 ああ。アイデアはまだまだある。全部を描き尽くしてからやめたいよな。それまで寿命が持つか。まあ、少なくともあと10年は大丈夫だろ。だからまずは、週プレでひと暴れさせてもらうよ!